
安静が必要となる妊婦さんにとって、筋トレを始めとする運動は厳禁と思われがちです。
しかし実は安全に注意しながら適度な運動を取り入れることで、妊婦さん自身やお腹の中にいる赤ちゃんにとってたくさんのメリットが生まれます。
健康的な出産準備をするなら、マタニティトレーニングは欠かせません。
今回は妊娠中でもできるマタニティトレーニングのメリットや、おすすめのメニューなどについて解説します。
妊婦さんでもできる筋トレ「マタニティトレーニング」とは?
妊娠中は「運動厳禁」「安静第一」といったイメージが持たれがちです。
切迫流産や早産のリスクが発生することから、妊婦さんはできるだけ安静に過ごした方が良いと思っている人も多いのではないでしょうか。
しかし妊婦さんでも適度な運動を取り入れた方がベストです。
例えば子宮収縮の恐れがあるため腹筋などのハードな運動はNGですが、負荷の軽い筋トレなら問題ありません。
最近は妊婦さん向けの適度な運動のことを、マタニティトレーニングと呼んでいます。
妊娠の段階ごとに適切な方法がある
妊娠には主に初期・中期・後期・産後と、全部で4つの段階があります。
それぞれの段階で妊婦さんの体調や症状が異なるため、段階に合わせながらマタニティトレーニングを考えなければいけません。
また同じ妊娠周期であっても、体調や気を付けなければいけないことには個人差があります。必ず主治医や助産師などに相談をした上で、トレーニングをするようにしてください。
一般的に妊娠の段階ごとにピッタリな運動方法は次の通りです。
- 妊娠初期:妊娠初期はつわりなどの症状が強いため、可能な限り安静に過ごすことが大切です。特に妊娠12週までは、運動は控えるようにしましょう。
- 中期:中期に入ると母体が安定してくることから、マタニティトレーニングを始めても問題ありません。ウォーキングや水泳などを取り入れて、筋肉量の低下を予防しましょう。体を動かすことでリラックス効果も期待できます。
- 後期:後期に入ると、いよいよ出産をするための準備が始まります。軽いストレッチで股関節周りをほぐしたり、呼吸を整えたりすると良いでしょう。
- 産後:出産は女性の体に大きなダメージを与えます。特に妊娠や出産にともなって骨盤底筋が弱り、産後は尿もれになる可能性も高まるでしょう。骨盤底筋を鍛え、さらにバランス性と筋肉量の回復に努めるようにしてください。
マタニティトレーニングのメリット3つ
妊娠中に適度な運動を取り入れることで、妊婦さんやお腹の中にいる赤ちゃんにたくさんのメリットが生じます。
続いてはマタニティトレーニングによる主なメリットを、全部で3つ見ていきましょう。
①難産のリスクを下げる
1つ目のメリットは、難産のリスクを下げられることです。
難産になる原因の一つが、運動不足による筋力や体力の低下。
もちろん妊娠中に運動をしていても難産になってしまうこともありますが、リスクを低下させることはできます。
「産婦人科診療ガイドライン一産科編2017」(公益社団法人日本産科婦人科学会、公益社団法人日本産婦人科医会)によると、妊娠中に週2~3回の軽い有酸素運動をしている妊婦さんには、早産になる確率が増加せずに身体機能の維持・向上が認められました。
また同時に低出生体重児や巨大児出生のリスク軽減も報告されています。
さらに柔軟性や持久力を高められることから、出産時間の短縮にも役立つでしょう。
②妊娠による身体のトラブルを予防できる
妊娠すると身体のあちこちにトラブルが発生しやすくなります。
例えばお腹が大きくなっていくにつれて、妊婦さん自身も前かがみの姿勢となり、背中や腰の痛み、肩こりなどに悩まされるようになるでしょう。
またホルモンの変化から血液と水分のバランスが乱れやすく、むくみや手のしびれなどを感じる人も少なくありません。
さらに妊娠中に分泌される黄体ホルモンの影響で、便秘になりやすくなることもあります。
マタニティトレーニングといった適度な運動を取り入れることで、妊娠中に表れやすいさまざまな身体トラブルの予防・改善が期待できるでしょう。
③気分をリフレッシュできる
最後のメリットが、気分をリフレッシュできることです。
妊娠中は自分が思ったように身体を動かせず、肩こりや腰痛といったトラブルに悩まされます。
また日常生活にもさまざまな制限が加われることから、妊婦さんによっては大きなストレスを抱えてしまうことでしょう。
適度に運動をすることで達成感や爽快感を得られ、気分のリフレッシュに役立ちます。
また身体が疲れることから眠気を誘い、夜間にぐっすり眠れるようにもなるはずです。
マタニティトレーニングで注意しなくてはいけないこと
マタニティトレーニングの目的は妊婦さんが身体を動かして、母体やお腹の中にいる赤ちゃんの健康維持・増進を図ることです。
しかしトレーニングによって、母体や赤ちゃんに悪い影響を与えてしまうようでは本末転倒。
マタニティトレーニングをする際は、以下で紹介する注意点を理解しておきましょう。
①運動してはいけない場合もある
妊婦さんがトレーニングをする上で最も注意してほしいことの一つが、子宮収縮の誘発と子宮胎盤血流量の減少です。
運動の強さでリスク軽減ができるものの、もともと下記で示すような発生のリスクを持っている場合はトレーニングをしてはいけません。
- 早産や後期流産の既往歴がある
- 重篤な心疾患・呼吸器疾患、前期破水、前置胎盤、低置胎盤、妊娠高血圧症候群などの合併症がある
- 多胎妊娠や胎児に発育異常がある
- 妊娠12週以前
上記で挙げた項目だけでなく自分の健康面で不安を感じる場合は、マタニティトレーニングを始める前に担当の産婦人科医に相談するようにしてください。
②時間帯は午前10時~午後2時、1回60分以内がベスト
2つ目の注意点はトレーニングをする時間帯を午前10時~午後2時の間、さらに1回60分以内に設定することです。
妊娠中に気を付けなければいけないのが子宮収縮。子宮が収縮するとお腹の中にいる赤ちゃんに負担がかかり、切迫早産のリスクが高まるでしょう。
夕方から夜にかけての時間帯にお腹が張り、特に子宮収縮が起きやすいといわれています。
日中に活動した疲れが収縮の原因となるためです。
そのため妊娠中の運動は夕方以前、午前10時~午後2時の間にしてください。
身体に大きな負担をかけないように、トレーニングは1回60分以内に設定しましょう。
③運動中は「心拍数」「体温」に気をつける
運動をしている最中は、「心拍数」と「体温」に気を付けなければいけません。
私たち人間は脳や胃腸など、全身のさまざまな臓器に血液が送り届けられています。
さらに妊娠中はお腹の中の赤ちゃんに酸素を届けるために、子宮にも十分な血液を送らなければいけません。
運動をすると筋肉にも血液が送られるため、運動量や運動の内容によっては子宮に送られる血液量が不足する可能性が生じます。
血液量が少なくなると、胎児が低酸素状態におちいるリスクも出てくるでしょう。
目安は心拍数を150以下にすることです。150以下なら問題はありません。
自分で心拍数を測定できる機器もあるため、上手に活用してください。
また母体が2日以上続けて38.5度以上の発熱が続く場合も、流産や胎内死亡といった可能性が高まります。
サウナやホットヨガといった、体温を上昇させるような活動も避けた方が無難です。
④体に違和感が残る場合は医師に相談する
最後は体に違和感が残る場合、医師に相談することです。
トレーニングをしている最中に立ちくらみや頭痛、呼吸困難、腹部の緊張や圧迫感、子宮収縮、性器からの出血、胎動の減少や消失などが見られた場合、すぐに運動を中止した上で医師に連絡を入れて指示を仰いでください。
おすすめのマタニティトレーニングメニュー3つ
最後におすすめの妊娠中でもできる、おすすめのマタニティトレーニング3つ紹介します。
①マタニティスクワット
まずはマタニティスクワットです。
お腹が大きくなればなるほど腹部の重みから、妊婦さんは自然と前かがみの姿勢になりがち。しかし前かがみの姿勢は転倒する危険性があるので良くありません。
スクワットは太ももやお尻だけでなく、お腹や腰の筋肉も鍛えられます。
お腹をしっかり支える筋肉が付くことで前かがみの姿勢を改善し、転倒のリスクも減らせるでしょう。
以下の手順で行ってください。
- 背筋を伸ばして、両足を肩幅よりも少し広げる
- 息を吐きながら、背筋を伸ばした状態でゆっくり腰を落とす
- 無理のない範囲で数秒間、しゃがんだ状態をキープ
- ゆっくりと体勢を元に戻す
通常のスクワット並みに腰を深く落とすとバランスを崩したり、お腹に大きく負担をかけたりします。
無理のない程度にとどめてください。
②マタニティヨガ
マタニティヨガもおすすめです。
通常のヨガと違って腹部に負担をかけないポーズを取るため、妊婦さんでも安心して取り組めます。
ポーズによって効果がさまざまですが、妊娠中に特に悩まされる便秘や腰痛、足のむくみなどへの効果が期待できるでしょう。
たくさんの種類のポーズがあるため、まずは自分が取り組みやすいものから始めてみてください。
またマタニティヨガは妊娠16週以降で、主治医から許可を得た上で行うことも大切です。
③マタニティスイミング
これまでに運動する習慣がなかった人にピッタリなのが、マタニティスイミングです。
プールの中は陸と違って、転倒する心配がありません。
運動が苦手な人でも、安心してトレーニングができます。
水の抵抗によって筋力が付くだけでなく、血液やリンパの巡りが良くなって足のむくみなどにも効果が期待できるでしょう。
水中ウォーキングをする場合は、股関節をほぐすイメージで歩いてください。
足を大きく横に上げて、股関節をしっかり動かすように一歩ずつ前に進んでいきます。
まとめ
妊婦さんでも大きく負荷のかからない運動を取り入れることで、難産のリスクが下がる、妊娠による身体のトラブルを防げるなどのメリットを得られるようになります。
ただし運動をする時間帯や心拍数、体温などには注意してください。
今回紹介したトレーニングメニューも参考にしながら、健康的な出産準備を進めてください。