
T&Hボクサ・フィットネス・ジム 会長 竹原慎二
大田区にある「T&Hボクサ・フィットネス・ジム」は元WBA世界ミドル級王者竹原慎二さんと元WBA世界スーパーフェザー級、同ライト級の2階級制覇王者畑山隆則さんが代表を務めているジムです。
竹原慎二さんと言えば、人気テレビ番組「ガチンコ・ファイトクラブ」に出演したことでも知られている人であり、現在も様々なメディアで活躍していらっしゃいます。
今回はそんな竹原慎二さんにインタビューを行い、ボクシングとそれにまつわる人生観について、お聞きしました。
積み重なるプレッシャー
-日本人初のミドル級世界チャンピオンということですが、試合前にどういう気持ちで挑まれましたか?
試合前は怖かったです。だから必死に練習して、リングに上がるときはもう開き直って、これだけやったんだからって言い聞かせて挑みました。
プレッシャーも凄かったです。それまでは誰からも褒められたことがなかったし、認められたこともなかったんですよ。チャンピオンになった時、ファンや応援してくれる人が増える度にプレッシャーが強くなっていきました。
ボクサーになる決意
-ボクサーになる前は、相当悪かったと聞きましたが
広島にいた頃は、喧嘩で有名になりたいと思っていました。でも、そんなことでは誰からも認められないことに気付きました。
-何故ボクサーになろうと思ったんですか?
父親が元ボクサーで、「やるなら正々堂々と、ルールのあるところでやれ」と言われたんです。それで、父親の勧めでやってみようかなと思いました。
-ジムを開こうと思ったきっかけは何ですか?
畑山さんが引退した時に、ジムを一緒にやらないかと誘われたのがきっかけです。最初は上手くいくわけないと思いましたが、気付けば20年近く続いてますね。
自分のために自分を追い込む
-ボクシング始める前は誰からも認められなかったと仰っていましたが、評価されることによって何か変化はありましたか?
頑張らないといけないなと、思考が変わりました。
最初は辛いことをするのが嫌だったんですが、東洋チャンピオンになるころには率先してやるようになっていました。
「誰のためにやってるんだ?」と思っていましたが、結局は「自分のためじゃないのか?」って思い直しました。そうしたら、もっと頑張らなければ勝てないと思って、自分を追い込むようになりました。
他にも、ボクシングを通して人生や考え方が変わった人は多いと思います。
網膜剥離は経歴の中で大きな壁
-今までで一番の大きな壁はなんでしたか?
壁はたくさんありました。
チャンピオンになった時も、すぐに網膜剥離で2か月くらい入院しました。その時は防衛戦を控えていたので、この状態で戦えるのかと不安を感じていました。
引退した時は、「これからは芸能界で食うんだ」と考えていましたが、なかなか仕事が来なくなりました。現役だったらまだしも、引退したら全く仕事が来なくなったんです。結婚もして、子供も生まれましたが、不安定な時期が続きました。
肩書きだけに頼ろうとしたけど、それではだめと気づいた
-その時に、どう向き合いましたか
その時は「楽をしたい」と考えていました。世界チャンピオンになった肩書もありましたから。
でも、それではダメだなと思って1年間ほどアルバイトをしました。
そのあとに自分の店を出して、厨房やホールの仕事をやっていたんですが、その時に自分が一生懸命やらなければいけないと気付かされました。
チャンピオンという肩書があるから色々なことが出来るけど、その肩書を汚さないように頑張らなければいけないと思いました。日本のボクサーは真面目な人が多いので、自分もそうしないといけないし、世界チャンピオンという肩書を汚したら先輩方にも失礼でしょう。
ボクシングの魅力にいつの間にか取り憑かれていた
-引退を考えたときは葛藤しましたか
ボクシングを好きでしたし、まだボクシングをやりたいという気持ちはありましたね。
-ボクシングの魅力を教えてください
ボクシングはいつの間にか取り憑かれているものです。
ここの会員さんもそうなんですが、ダイエットや健康のために始める人が多いです。でも、徐々にグローブを付けて実戦がしたくなる人が増えて、試しにスパーリングをやって、次は試合に出てみたいという人が出てきます。だから、いつの間にか取り憑かれているものなんですよ。
女性でも試合に出たいと言っている人も多いし、実際にやってみれば分かります。
強くなると優しくなる
ボクシングだけではなく、キックボクシングや空手もそうですが、強くなれば優しくなれます。言葉では表せられないけど、色々と気づかされる。
強くて威張ってる奴なんていない。中途半端に強いと威張ったりする人はたまにいるけれど、本当に強くなると威張らなくなる。私の場合は世界チャンピオンという肩書もあったし、「ボクサーだから」と言われたら嫌ですから。
過程を大切にする
-結果が評価に繋がるという点もボクシングの魅力なのでしょうか
ボクシングは結果が全てと言われていますが、私はそうは思わない。確かに結果は変えることができないけど、結果に至るまでの過程が大事だと思います。
ここのジムの生徒でも、いい加減な練習で試合に勝たれても私は嬉しくない。逆に一生懸命頑張った人なら、泥仕合になっても嬉しい。
負けても頑張ってる人なら、いい加減に練習をしている人よりは評価はできると考えています。周りの人は評価しなくても、私は過程が大事だと教えています。
「がん」という、新たな闘い
-話は変わりますが、膀胱がんをされてらっしゃったとか。
最初は膀胱炎と診断されたあと、2年近くその病院に通っていました。でも血尿が出た時点で、先生に相談をしたら大きな病院を紹介してくれて、癌だと診断されました。
-闘病期間中のことを教えてください
2014年の1月に癌と分かって、そのあとの1年間は闘病期間でした。
2014年の2月に手術をして、検査手術したけど結果が良くなかった。そして抗がん剤治療をして、その年の6月に膀胱摘出手術をして1か月くらい入院した後に自宅でゆっくりと療養をしました。
病気が分かって、手術するまでの期間が一番辛かったです。手術の前に「早く何とかしないと、下手すれば1年で死にますよ」と言われて、その時は本当に辛くて焦りましたが、できるだけ前向きに考えるようにしていました。
-完治までの期間もメディアでご活躍されていましたが、その原動力は何ですか
やはり働かないといけないでしょう。
自分がどうなるか分からなかったけど、気持ちは大事だなと思っていました。気持ちが強い人は、結構長生きしてる人も多いので、前向きに考えてはいました。
チャンピオンを作る
-このジムでどんな人を作りたいですか
チャンピオンや日本ランカーとかをたくさん作りたいです。立派なプロボクサーを作って、夢を見てみたい。
ボクサーというのは、実力があっても無くても我が強い人が多いでしょう。だから、それを何とかすることが大変です。試合前になると緊張しすぎて、ビックマウスになってしまう人もいます。逆に、練習では強いのに試合になると途端に弱くなってしまう人もいる。
いい加減な練習しかしていないのに試合へ挑む人を見ると、怖くないのかなと思います。
-指導する上で重要視していることはなんですか?
私はメンタル面です。練習の中身とかも、全ては気持ち次第ですから。
気が強くないとやっていけないから、自然とメンタルは強くなる。芸能界もそうだと思うし、そういう世界で生きるためには自然と身に付いていくのでしょう。
女性にも親しまれる「T&Hボクサ・フィットネス・ジム」
-エクササイズ目的の人も多いと伺いましたが、女性も盛り上がっているんですね。
結構多いです。ここでは暗闇ボクシングもやっているけれど、多い時は1回のレッスンで10人くらい参加しているときもあります。
特に女性は、昔に比べたら増えてきました。
-女性と男性の違いはありますか?
女性は負けん気が強くて、練習を凄く頑張っている人が多い印象です。
私もこの間スパーリングの相手しましたし、結構スパーリングまでやっている人は多いです。
「やらず後悔よりやって後悔」世界チャンピオンはほとんどみんな勘違いから。
-若者へメッセージをお願いします
目標に向かって一生懸命頑張ることです。
特に20代なんて何をやってもやり直しはきくし、「やらず後悔よりやって後悔」。「やらず後悔よりやって失敗のほうがいいよ」と言いますから。
ボクシングにしても、何事も考えすぎると何もできなくなります。
-行動あるのみですかね
無謀な行動はダメですけれど、ある程度は勢いが必要です。
ボクサーからチャンピオンになる人というのは、みんな「俺は世界チャンピオンになれるんだ!」という勘違いから始めていますから。