数々のチャンピオンを輩出した名門!「金子ボクシングジム」にインタビュー

数々のチャンピオンを輩出した名門!「金子ボクシングジム」にインタビュー

金子ボクシングジム 会長 金子健太郎

ボクシングに関わる人間なら誰でも知っている超名門ジムといえば「金子ボクシングジム」です。日本ボクシング界において、名選手の一人に数えられる金子繁治氏が設立したジムであり、今まで複数のチャンピオンを育て上げました。

今回は金子ボクシングジムの会長で、金子繁治氏の長男である健太郎さんにボクシングの魅力についてお聞きしました。

 

リングの上の英雄

-ジムを開くことになった経緯や、今までの経歴を教えてください。
私の父は、戦後日本人で初めて東洋チャンピオンになった人です。

当時の日本のボクシング界というのは、まだ世界チャンピオンや東洋チャンピオンはいませんでした。それまでは日本国内の日本チャンピオンを争うことをしていましたが、戦後プロボクシングというスポーツが国際スポーツとして日本で受け入れられ始めたんです。

当時は戦争が終わって、日本は戦争に負けた国ということで、悲惨な思いをしている人たちがたくさんいました。でも、スポーツの世界で対戦相手をバンバンなぎ倒す父の姿を見て、国中が凄く盛り上がりました。

国際試合となると海外の選手とも戦いますが、父はパンチ力があったので相手をどんどん倒していく。そして、リングを降りると敬虔なクリスチャンで真面目な人ということで、人気があったのです。

その父が引退して、私が3歳の時にこのジムを開いたので、僕はこのリングで育ったようなものです。

中学生までは他のスポーツをやっていたのですが、高校生時代にボクシングにのめりこみました。そして高校を卒業し、東海大学のボクシング部に入って、卒業と同時に指導者になりました。

自分の父の会社に就職したという形なのですが、入社して21年目の平成16年4月に、父も年だしとのことで会社を私にバトンタッチして会長職を継ぎました。

 

世界チャンピオンを生み出す苦しみ

-今までで一番大変だった時はなんですか?
やはり、世界チャンピオンを生み出す苦しみです。

「世界チャンピオンを育てたい」、この世界に入った以上、世界タイトルをとる選手を育てたいと思っていました。

2011年に、清水智信という選手が世界チャンピオンになりましたが、その時も簡単にはいかなかった。

1回挫折して、2回世界戦で負けて、3度目の正直で世界を取りましたが、やはり世界の壁は高いです。東洋チャンピオンや日本チャンピオンはいますけど、世界チャンピオンを育てるのは本当に苦労しました。

しかし一度世界チャンピオンが出ると、どういう段取りで進めればチャンピオンになれるのかのノウハウが分かります。どのタイミングでどのようなトレーニングをさせる、どのタイミングでどの選手と戦わせて自信つけさせようかという感覚です。

初めからチャンピオンを取れる人はほとんどいない。アマチュアでたくさんのキャリアがある人が意外と取ったりしますけど、1回目の挑戦で失敗する人は多いです。

だから、ちょっと無理してでも1回目の挑戦というのは、「ちょっと早いんじゃないか。」というタイミングで挑戦させるのです。そうして1回でも戦ってみると選手は自信を付けますし、挑戦のための練習をたくさん行うようになります。

 

日本タイトルマッチや東洋タイトルマッチの場合、そんなにマスコミも騒ぎませんが、世界挑戦となるとマスコミを意識しなければいけない。計量にもマスコミが来ますから、スタッフまでも緊張してしまいます。

そういうものに慣れることによって、大舞台でインタビューされても堂々と答えられるようになる。計量の会場にマスコミが集まっても、緊張せずにウェイトを計ることができるようになります。やはり初めての時はスタッフもみんな緊張しますね。

そしてリング上で選手が国歌斉唱をしていると、もう意識が別世界に飛んでしまうくらいに選手もだんだん緊張してくるわけですよ。トレーナーたちも緊張するから、椅子は落とす、うがいさせる瓶は震えてる、なんてことをしてしまうと選手に全部伝わってしまう。

そうならないように、周りの空気感が大事です。「いつもの試合会場と一緒なんだ。そばにトレーナーがいる、横にはマネージャーもいてくれる、バックには金子会長もいてくれる、このセコンドに守られて俺はいつものパフォーマンスをやるだけだ。」とそう思わせて集中させる。

世界チャンピオンを生み出すためには、こうした配慮が非常に重要です。この感覚を掴むのに、かなり時間を要しました。

 

ボクシングは1番シンプルな競技

-ボクシングの魅力は何ですか?
ボクシングは1番シンプルな競技です。マラソンとボクシングの競技は、古代ローマ時代のオリンピアからあったらしいですが、当時は、革を巻いた拳で殴り合いをしていたようです。

原始的な戦いですが、攻撃と防御はとても科学的です、そして紳士的に相手を尊敬して戦う。憎くもない相手と戦わなければいけないけど、終わった後は打ち合った相手と健闘を称え合って友達になれる。だから、凄くシンプルな競技だと思います。

よく、「ボクシングはルールのある喧嘩だ」と言われますけど、喧嘩とは違います

喧嘩は恨みとか憎しみがあってやるものです。でもボクシングは、相手のことを恨んでいたり憎んでいたら感情的になり良いパフォーマンスは出来ない。基本的には相手を尊重して、リスペクトしながら自分の技術を出していくものなのです。

 

心も体も強く

-精神力も必要なんですね。
心も体も強くならなければいけない。

まずは、減量して自分との戦いに勝つ。だから他のスポーツには無い魅力があります。

人間の体というのは、普段の練習を毎日している体重から6%絞ると一番機敏な動きが出来るらしいです。だから、体重をその数値に持っていく。体に負担がかかる減量はしない。

昔は、急激な減量として水抜き減量とかが主流でしたが、それはボクサーの体に負担がかかりすぎてしまう。だから徐々に時間をかけて落としていきます。

 

一昔前の減量と今

昔の減量は、脱水症状と塩分やカリウム不足になったりして、足の調子が悪くなることがありました。ただ、今の減量は少し違っていて、今のスポーツドリンクやサプリメントって凄く発達しているんです。

昔はサプリメントなんて無かったので、食べ物しか摂るものないし、水を抑えて落とすしか無かったのです。今はいいサプリメントがあって、選手たちも考えながら摂っているから、栄養が取りやすくなっている。

そして減量して、ピリピリ神経が研ぎ澄まされると、一粒の水滴がポタリと落ちるところまで分かるようになっていきます。そのような状態なので、試合中でも相手のパンチを紙一重で躱せるようになります。

 

-減量を乗り越えると自分に自信が生まれますよね
乗り越えたときの自信感があります。普通の人たちが出来ない世界に自分は入ったのだと感じます。

 

人を変えるスポーツ

-育てた人の中で印象に残る選手を教えてください
OPBF東洋太平洋クルーザー級チャンピオンの高橋良輔選手です。

僕が育てたチャンピオンの中で、一番の「チキンハート」でした。ヘビー級で相手も大きいのに、ずっと「ヘビー級で戦うんだ」と言って体を鍛えて、日本人で初めてヘビー級の東洋太平洋チャンピオンに挑戦させました。

その時は負けてしまいましたが、その後の努力で1階級下のクルーザーという階級でチャンピオンになった。デビュー戦の時は怖くて目をつむって打っていたくらいチキンハートだったのに、それが変わる。ボクシングというのは、そういうスポーツなんです。

 

「負け」に負けない人を作る

-トレーナーとしての今後の目標を教えてください
「ただ強い、ただ成績がいい」だけではなくて、負けたことのある人は負けた時の悔しさがある。逆に、強い人は負けた時のことを分からないから、負けを経験して勝利の大切さを知ることが大事だと思います。

だから、「負け」に負けない。負けた時でもくじけない人を育てたいです

 

私の選手に東洋太平洋チャンピオンの新田勝世という選手がいたんですが、彼は「負け」に負けない男でした。何度挫折しても、何度タイトルマッチをしても負けましたが、最後には東洋太平洋チャンピオンになった。

チャンピオンになっても、自分より強い人が出てきたら、いつかは負けてしまう。人生もそうです、いつも勝利者でいられるわけではない。

勝負の世界にせっかくいるのなら、負けに負けない、負けた時も這い上がれる人、挫折しても諦めるのではなく、挫折を糧にして次の勝利を大切にできる人。そういう人が本当の強さだと思います。

ここのチャンピオンは、連戦連勝でチャンピオンに上り詰めた人がほとんどいません。挫折を味わって、その挫折を活かしてチャンピオンになった。

清水智信(WBA世界スーパーフライ級チャンピオン)や新田勝世(OPBF東洋太平洋バンタム級チャンピオン)など、負けを経験したうえでチャンピオンになった人たちは本当に強いです。

 

心も身体も素敵な自分を作る

-ボクシングを通して、どういう自分を作れると思いますか?
「選手づくり」と言っていますけど、僕は「人づくり」だと思っています

素敵な自分を作るというか、または体ばっかりじゃなくて、体の綺麗さは心から生まれるのです。だから、ただ強ければいいってもんじゃなくて人間性が大切です。他のスポーツもそうかもしれないけど、ボクシングというスポーツは若いときにしかできないことが多いでしょう。

もちろん、高齢者の方も楽しんでボクシングやっていますけど、試合に出たりとかは若い頃だけなので、心と体を鍛えてあげたいと思っています。

 

チャンピオンは奪い取るものではなく。与えられるもの

-それでは最後に、皆さんにお伝えしたいことはありますか?
これは父の恩師の牧師さんが言った言葉なのですが、「チャンピオンは奪い取るものではなく、与えられるもの」。

君の拳から憎しみや恨みを取りなさい。取り払って相手を尊敬して、一生懸命精進しなさい。そうすれば、神様が君にチャンピオンベルトを与えてくれるよ」と言われたそうです。

憎しみを持って相手を叩くのではなく、ただ努力をしていれば自然とタイトルは与えられるものだ。それを色んな選手に試合前に言うと、肩がリラックスされて、いい試合が出来るようになります。

世界チャンピオンの清水君も、父から試合前に「チャンピオンって与えられるものなんだから、リラックスして臨みなさい。それだけの努力を君はしてきているんだから」と言われて、凄くリラックスできたと言っていました。

だから「チャンピオン」という肩書きは、それだけの実力を持てば与えられるものなのです。

僕もチャンピオンのジムの会長として、チャンピオンのトレーナーとして、チャンピオンのマネージャーとして、それだけの実力があればちゃんと与えられるのだと思います。

この記事が気に入ったら いいね!お願いします

最新情報をお届けします

同じタグのついた記事

同じカテゴリの記事